
結局、最初に通院を始めてから、約1年半が経ちました。
これまで、第5回までの治療日記を、当時のメモと記憶を頼りに書いてきましたが、第6回目くらいからは診察自体は毎回同じようなことの繰り返しでした。
月に1回、診察を受け、先生に変化があれば報告をして、同じ薬をだしてもらうことの繰り返しだったのです。
もちろん、第6回目の治療から、この1年の間にはいろいろな事がありました。
例の朝礼での発表も再び経験したのです。
結果は・・・大成功でした。


2回目の朝礼での発表は1回目の発表から半年が過ぎたころでした。
実はそれまでに何度か人前で発表する機会があったのですが、規模も小さかったせいか、そんなに緊張することはありませんでした。
しかし、規模は小さくても、以前の私なら確実にガチガチに上がってしまうような場面ばかりです。
そんな場面でも、周囲をグルーッと見回して、比較的冷静に話すことができるようになっていました。
もちろん、失敗して、声が震えたりすることもありましたが、それが原因で話すのが止まってしまったりすることなどはありませんでした。
又、発表の最中に声が震えて失敗しても、発表途中に再び持ち直したり、その失敗を後に引きずることはありませんでした。
これらは、確実に治療の効果だと思いました。
このような人前での小さな発表などの経験を重ねるにつれて、「確実に良くなっている自分」を感じる機会が増えてきたのです。
このように「変わる自分」を確認するのが嬉しくて、小さな集団の中では機会があれば自分には関係もないことにまで、意見を言ったりするようになりました。


そして、2回目の朝礼での発表の日がやってきました。
発表の前の晩も、前回とは違って緊張はしましたが、眠れないほどではありません。
朝、起きても緊張と同時に、「よし、やるぞっ!」という意欲まで湧いてきました。
しかし、そんな前向きな意欲も、発表の時間が近づくにつれて、全く無くなってしまい、ただ緊張だけが残ってしまいました。
でも、こうなることも、だいたい想像は出来ていました。
いくら、「自分に自信がついた」と言っても、人前であがらなくなるわけではありません。
ですから、今回はいかに「ソラナックス」(抗不安薬)に頼らずに乗り切るかが、課題と思っていたのです。
決して無理をするつもりは有りませんでしたが、何とか頓服の「ソラナックス」に頼らずに、発表を乗り切りたいと思っていました。
いよいよ、発表の時間が近づいてきました。
胸がドキドキして、落ち着きません。
「あ〜、やっぱり無理かな」という気持ちが、時間の経過と共に、私の心の中で大きくなっていきました。
発表の1時間前になりました。
薬を飲むのであれば、飲まなければならない時間です。
頓服の「ソラナックス」(抗不安薬)は効くのにある程度、時間がかかります。
これまでの経験から、私の場合は約1時間くらいしてから効き始めたので、今、飲まなければ「ソラナックス」が効いてくるのが発表に間に合わなくなるのです。
ペットボトルの水を持ってウロウロしながら、飲むか、飲まないかを悩んでいました。
この間にも、緊張は確実に高まり、時間は過ぎていきます。
そこで、大きく深呼吸をしました。
そして、それまでのことを1つづつ、振り返って思い出して行きました。
高校、大学、フリーターのころのことや、今の会社に入ってのこと、家族のこと、治療のこと。
それらを思い出しながら、「確実に自分は変わった」と言い切れると思いました。
「社会不安障害(SAD)」という病気に対して、確実に治療の成果が出ていると、強く思いました。
その時点で、頓服の「ソラナックス」を飲むことは止めようと決心をしました。
いよいよ、発表です。
合図と共に、ゆっくりと壇上に向かいました。
緊張はピークに達していましたが、「自分の足取りはしっかりしている」と、感じることが出来ました。
用意された原稿を読み上げます。
自分の声が、マイクを伝わりその場に、大きく広がりました。
話している自分と、スピーカーから聞こえる自分の声の時間差に少し戸惑います。
しかし、何より声と体の震えが出ませんでした。
そのまま、約5分ほどで私の発表は終わりました。
発表が終わると同時に、緊張は全くなくなり、壇上で大勢の前に立っていることが、全く気になりませんでした。
もっと話せと言われたら、まだまだ色々と話せそうな、そんな余裕さえも出てきました。
壇上から降りる時は、本当に心身共に心地よい疲労感で一杯でした。
恐らく、私は歩きながら、にやけた顔をしていたと思います。
こうして、私の長い戦いは終わりました。
「戦い」と言うと、大げさに聞こえるかもしれませんが、この朝礼での発表は、私にとっては一生を左右する大きな戦いだったのです。
何度も現実から逃げることを考えたり、失敗も重ねたりしましたが、ようやく社会不安障害(SAD)という病気を克服することができました。
第6回〜最後(第16回)の治療日記(2/2)へ続く
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